★特許の取得とそのリスク
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2016.8.01
1.特許を取得する目的
特許や商標(ブランド)の相談では、概ね、自社で新製品を開発したので、その成果を特許出願の形にしたいであったり、新しい商品やサービスの名称が決まったので商標出願したいといった依頼が多い。
このように、特許を取得する目的の第1には、自社の製品を守ること(商標では自社の社名や商品やサービスを守ること)にある。これにより、自社の事業を守ることが、知的財産権の目的となる。
第1の目的の裏返しにもなるが、第2の目的は、他社の排除である。他社が、同一製品や類似製品を販売することを阻止することである。
2.特許出願をするリスク
権利を取って、自社の製品を守るのだから、他社を排除できるのは当然だとうと思うかもしれないが、ここには大きなリスクがある。
まず、特許出願をしただけの出願段階では、特許権が発生しているわけではないので、出願後1年6カ月で強制的に内容が開示され、タダで、他社に自社の新製品の技術を教えてあげることになってしまう。
いずれ権利化されて、他社を排除できるのだろうと思うかも知れないが、当然、審査の結果、拒絶になり、権利化できないリスクもある。特許査定の割合が概ね70%であることに鑑みれば、30%の権利化できないリスクは大きい。
3.特許になった後のリスク
仮に、権利できたとしても、審査の過程で限定が必要になった場合には、その限定事項がずっとその権利には付きまとうリスクもある。すなわち、その限定事項を他社がやらなければ、侵害にはならないのだから、限定事項によっては、権利があっても他社にとっては容易に回避できて、無いのといっしょということになる。
さらに、然程の限定もなく無事に特許になっても、いざ他社に権利行使をしようとすると、他社から権利無効の主張をされ、最悪、無効審判で本当に権利が無効となって取り消されてしまうリスクもある。
すなわち、特許権者であれば、製造・販売・輸入・輸出・販売等の申出(展示)を含むすべての行為が独占できて、他社を排除できる。そのため、他社が無断で製造していれば、そのラインを止めることができし、無断販売も止めさせることができる(差止請求可能)。また、過去の侵害分に対しては、侵害による損害賠償も請求できる。
しかしながら、これはすべて権利が有効である前提である。特許庁での審査では発見されなかった、より近い先行技術文献を発見すれば、特許自体を無効にして初めから存在しなかったということができてしまう。
このような無効資料を発見するのは、不可能ではと思うかもしれないが、特許庁での審査経過を詳細に検討し、審査段階では見ていない特許分類等に着目することで、1件くらいの特許であれば比較的容易に潰す資料を準備することができる。
余談になるが、私の所属している特許事務所でも、権利化の仕事量と同じくらい特許調査の仕事もしている。その中には、当然、このような無効資料を見つける無効調査も多数存在している。
このように特許出願のリスクや特許になった後のリスクを考えると、そもそも、特許出願しないのが得策のようにも感じられるかも知れない。すなわち、ノウハウで秘匿し、特許出願しないという選択である。
4.ノウハウ秘匿のリスク
しかし、ノウハウ秘匿のリスクは、その後、他社にノウハウの内容で特許を取得されるリスクがある。例えば、自社の工場内で使わる製造ノウハウなどは、ノウハウとして秘密に管理して、特許出願をしないことがあるが、製造ノウハウについて、後日、他社が製造方法の特許を取得してしまうという場合である。
この場合には、まず、形式的には、他社の製造方法の特許を侵害する行為になり、場合によっては、権利行使される可能性がある。
当然、その製造方法の特許出願前から、自社の工場内で実施しているので、その特許権に対抗できる先使用権を主張することができるが、先使用権の証明は、先使用権を主張する者、すなわち、そもそも特許出願をせずにノウハウ秘匿していたものに課せられる。
そのため、特許出願をせずにノウハウ秘匿を選択するのであれば、将来、先使用権を主張するために、自社の実施内容や実施開始時期等の客観的資料を準備しておく必要がある。
さらに、先使用権は、自社の実施の範囲に限定されるため、将来の事業の拡大等では、先使用権を主張できないリスクもあることに注意が必要である。
5.それでは、どうすればよいか?
答えは、簡単である、『特許出願と特許とノウハウ秘匿』を使い分けることである。特許出願と特許とノウハウ秘匿には、それぞれ一長一短があるので、これらを組み合わせて、それぞれ使い分けることである。
例えば、特許は取得しておきながら、常に、出願中で権利状態の確定しない特許出願を数件持っておくことで、競合他社は、確実に回避せざるを得ない特許に加えて、権利範囲が確定しない特許出願で開発方向を確定できないことになる。
さらに、加えて、出願公開前の特許出願を持っておくことで、これから何か出てくるか予測不能な隠し玉が、競合他社の開発投資にブレーキをかけることになる。なぜなら、先に開発投資をした後に、出願公開されると、後発の重複開発・重複研究に投資をしたことになってしまうためである。
ここに、ノウハウ秘匿を組み合わせることで、量産化技術など、コスト面での競争優位性を獲得していくことができる。ここで、ポイントになるのは、特許の取得や特許出願をした上で、ノウハウ秘匿をする点である。特許の取得や特許出願があることで、他社のノウハウ内容での特許出願やその権利化を封じ込めることができるためである。
6.最後に
実際に、弁理士の力量は、クライアントのビジネスモデルや収益モデルから、早期に特許を取得すべき内容、特許出願で長く係属させておく内容、そして、ノウハウで秘匿すべき内容を切り分けて、事業における競争優位性を構築するところにある。
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